とある家のリビングで、三人の男は顔を突き合わせるようにしてテーブルに広げられた紙を覗き込んでいた。
紙に印刷されているのはトーキョー・モダン・ミュージアムの見取り図である。赤いジャケットの男が指で何かを指し示した。
「――ここに今回のターゲットが設置されてるから、こっちからこうして、んでここをこう、俺がこうしたらお前らはこうして……」
ふむふむと聞いている二人の相棒に一通り仕事の流れを説明した男はふぅと息をついて肩をすくめた。
「っていうふうにいけたらいいなーと思ってるんだけっども」
「?」
見取り図を食い入るように見つめていた相棒はそれぞれ怪訝な表情で顔を上げる。
「なんかここね、最新のセキュリティシステムとやらを導入してるらしくってさ。館長は蟻の子一匹通さないって豪語してるらしいんだよねェ……もちろんそういうの、俺様逆に燃えるんだけどさ」
男の瞳はキラキラと輝いていた。数々の『不可能』を『可能』に変えてきたこの男は、攻略対象への道が難関であればあるほど燃え上がるのだった。
「システムの概要と、何段階目のロックかはわかんねぇけど解除の暗号鍵を書き込んだ見取り図、とっつあんが肌身離さず持ってるらしい」
ボスンと勢いよくソファーに身を投げ出して、男は立ったままの相棒二人を見上げた。ジャケットの内ポケットからデジタルカメラを取り出して二人に見せる。
「というわけで二人にお仕事。とっつあんちに行ってその見取り図をコレで撮ってきておいてネ。ま、二人がかりでやるようなことでもないし、行くのはどっちでもいいよ、お前らで相談しな」
相棒二人――真っ黒なスーツにボルサリーノ製のこれまた真っ黒な帽子でキメた男と、涼やかな着物姿の男は顔を見合わせた。
「ん? どした?」
浮かない表情で押し黙っている二人に、ボスである赤ジャケットの男、ルパンはくりくりとした目を向ける。黒スーツの男――次元大介はゆっくりと口を開いた。
「お前は行かないのか」
「行きたいのは山々なんだけっどもさぁ、他にもやることいっぱいあんだよねぇ……何? そんな難しいことじゃないデショ?」
気の進まない様子の二人に小首を傾げて見せると着物の男、石川五右エ門がムッとしたように言葉を返す。
「無論、造作もないことだ。だが――」
「ぶっちゃけめんどくせェ。なんで家に? 警察庁で撮ってくりゃいいんじゃねぇか」
言い澱んだ五右エ門の言葉を受けて次元が言い放った。五右エ門がしかつめらしくうむ、と頷く。
「お前らなぁ……。話、聞いてた? 見取り図はとっつあんが肌身離さず持ってんの! 隙があるとすりゃあいつが寝てる時くらいでしょうが! それに……」
ルパンは深いため息をつき、ゆっくりと立ち上がった。
「べぇつにぃ、俺が行ってもいいンダヨ? だがな」
ビシッと音が聞こえそうな勢いで黒スーツの男を指差す。
「じげぇん、お前がコンピュータ使って今回の段取り立ててくれるのか?」
鼻先に指を突きつけられた黒スーツの男はぐっと喉を詰まらせる。次いでその隣に立つ男の鎖骨のあたりを着物の衿の上から人差し指でトンと突いて。
「五右エ門ちゃん、お前が今回の仕事に必要な小道具、用意してくれるのけ?」
「そ、それは」
五右エ門は狼狽えたように顔を逸らし小さな声でできない、とつぶやいた。
「デショ? とっつあんちに忍び込むより何十倍もめんどくせ~仕事を俺様がやってんのよ? 解ったらどっちが行くかさっさと決めて行ってきてよね!」
軽く怒ったような口調とは裏腹に、ルパンの背後にはピリピリとした苛立ちのオーラが立ち昇っていた。
それを目の当たりにした相棒二人は気圧されたようにごくりと生唾を呑んで頷くしかなかったのであった――。