Rain

「君が人を殺す日は、いつも雨が降るんだね」
『僕』はゆっくり振り向いた。『君』がいつものように立っている。
違うのは足元に転がる屍体の外見だけ。

「そうだよ。僕が人を殺す日は雨が降るのさ。僕を溶かす様に清めてくれる」
『僕』は天を仰いだ。温い雨。『君』は言う。
「なら、もっと…雨が降らなくて困っているようなトコロで人を殺せばいいのに」
『僕』はうつむいて、肩をすくめ、呟くように答えた。
「いじわるだね。知っているだろう、僕は此処でしか生きられないんだ」

『君』は『僕』の腕にそっと腕を触れさせた。冷たい手。
『僕』は『君』を引き寄せ、額を、頬を、唇を、寄せ合う。
不意に『君』は手を振りほどき、驚いたように『僕』を見つめる。
急に不安になる『僕』を見て、『君』はそっと微笑する。
「君が人を殺す日に降る雨は温かいね。まるで殺された人の血みたいだよ」
『君』はそういうと、うつ伏せに倒れている屍体の背中に突き刺さっているナイフを足で踏んで更に押し込めた。
『僕』は笑って『君』の肩を抱く。
「そうだよ、血の様な雨だ。…君が踏みつけたりしなけりゃこれもコレクションに加えられたのに」
謝罪を意味する返事のかわりに『君』は首を捻じ曲げて『僕』の頬に冷たい唇を押し当てた。

そろそろ、発情期に入る。人を殺したくなる発情期だ。
『僕』は『君』を殺すことに決めた。『君』の雨を感じたかったから。
なにも知らない『君』に近づき、『僕』は右手のナイフを『君』の脇腹に突き立てる。
『君』は何か叫ぶように口を開いた。けれど声にならない。

その時。

『僕』は『僕』の左の脇腹からも血が吹き出ているのに気づいた。
ああ。なにも知らなかったのは『僕』だ。
『僕』は『君』であり、『君』は『僕』なのだから。
『僕』は『君』と同時に、全く同じ様に倒れる。
温かくて、優しい、血の様な雨の下で『僕』と『君』、『君』と『僕』は溶け合う。

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