ばさり、と音がして銭形は目を開けた。背後からごそごそと衣擦れの音が続き、ゆっくりと意識が浮上していく。
「――眠れないのか」
言いながら寝返りを打つと窓際のベッドの上でこんもりと膨らんだ布団が目に入った。銭形の声に一瞬動きを止めた布団がもぞもぞと動き、ひょこりと丸い頭が出てくる。
「悪ぃ……とっつあん、起こしちまったネ」
その声にいつもの覇気はなく、銭形は眉根を寄せた。
「さっさと寝ろよ、明日は早いんだ」
ルパンを捕らえたのはいいが、大した事件もない平和な片田舎の留置所では天下の大泥棒を収監するには心許ない。インターポールに連絡を取り護送の段取りをつけたあと、連泊していた宿を急遽ツインに変えることになったのだ。
「……わかってるけど、さ、寒くってよぉ」
震える声で答えるルパンに銭形は盛大な溜息をついた。
「ワシを相手にくだらんかっこつけなんぞするからだろ」
「そんな言い方ないでしょーよ、俺は泥跳ねからアンタを守ったんだぜ」
銭形は昼間のことを思い出す。
世界でも指折りの豪雪地帯として知られるこの国では、暦の上では五月になってもなお、路肩にくすんだ雪塊を抱え込んでいた。そんな道端を、二人は手錠でつながったまま滑る靴底に苦心しながら歩いていた。
そこへ猛スピードの車が走り抜け、盛大に雪混じりの泥水が跳ね上がる。銭形が「あっ」と息をのんだ刹那、体を入れ替えたルパンが銭形を庇ってそれをまともに浴びた。
「それが余計なお世話だってんだ。女子供じゃあるまいし……盗人の情けは要らんといつも言っとるだろうが」
そういうと銭形はくぁ、とあくびをして目を閉じた。明日に備えてとにかく早く眠っておきたかった。ルパンはまだごそごそと布団の中で落ち着かない。
「……そっち行っていい?」
「なんでそーなる」
「だって手も足もちべたくて寝らんないし、とっつあんも冷たいし、俺、もうこのまま死んじゃうんだ」
ずび、と鼻をすする音と一緒に泣き言を零すルパンに銭形は再び目を開けた。カーテンの隙間からわずかに漏れ入る月明かりの中でもそれとわかるほどルパンの顔色は悪く、銭形はしばし考え込んだのち、腕で布団を持ち上げた。ルパンの目が丸くなる。
「何アホ面晒しとるんだ、さっさと来い」
「いいの?」
「死なれたら困るからな」
むすっと返す銭形にルパンはおずおずと自分のベッドから降りて銭形の横に滑り込んだ。寒気は本当なのだろう、ガタガタと震えているくせに身のこなしは猫のようにしなやかで、妙にそれが癇に障った。
「寝ろ」
背中を向ける銭形にルパンはへぇっと気の抜けた声を上げた。
「なななんで離れるわけ?」
「――なんでって、狭いだろうが。お前の分の場所を空けてやってんだよ」
「いやあの、俺、体冷えてるからさ、……ひっついていい?」
囁くような声の合間にカチカチと歯の鳴る音を聞いて、銭形は諦め半分に長い溜息を吐いた。眠りから引き戻されてこれ以上ウダウダと絡まれるのはごめんだ。
「好きにしろ。……ッて、冷てっ!?」
許可した途端、背後から伸びてきたルパンの腕が上腕に触れて銭形の体はぎくんと硬直した。その手はまるで氷のように冷え切っていて、反射的に逃れようとする体をぐいと引き戻される。
「なんで逃げんの」
うなじにかかる掠れ声さえひんやりと感じて銭形の首筋にぞわりと鳥肌が立つ。
「お、お前、冷たすぎだろ……っ」
「だから言ってんじゃん、死にそうに冷えてるって」
言いながら銭形の体の前に回した手に力を込めてさらに引き寄せる。背中に触れたルパンの体の冷たさに銭形は言葉を呑んだ。
「はぁ~~~~とっつあんあったけぇなァ……燃えてるみたいに熱い……」
まるで温泉につかったおっさんのようなせりふを吐くルパンに、銭形は奥歯を噛み締めた。泥跳ねから庇うなど余計なお世話だ、と突っぱねて見せたものの、一切感謝していないかというとそこまで冷血漢ではない。背後の氷の塊の権化を突き飛ばしたい衝動を、どうにか堪える。銭形は自分だけの温もりを確保しようと、脚を縮めてさりげなくルパンから距離を取った。下半身だけでも。気取られないように。
抗議するのも諦めて体を丸めた銭形に、手首を離したルパンの指が、ためらうように腹へ触れてくる。
「う、」
ランニングシャツ越しでもわかる冷たさとくすぐったさに、銭形は思わず身を竦めたが手を振り払うことはなかった。わずかに身を硬くした銭形をなだめるように腹を撫でるルパンの手はかじかんでいるせいかぎこちない。静かな部屋で布団が擦れる音だけが嫌に耳につく。横になって宿敵に後ろから抱きしめられ腹を探られている、という意味の分からない状況がなぜだか可笑しくなって、声を出さずに笑いを零すとルパンの手が止まった。
「ごめん、冷たいよな」
笑い混じりの吐息を不平不満の溜息だととったのか、ルパンはしょんぼり言うと銭形の腹に置いた手を浮かせた。
「別に構わん」
離れかけたルパンの手を掴んで腹に置きなおしてやるとルパンはピクリと震えた。かじかむルパンの手を自分の掌で包んで敢えて強めに腹に押し付ける。
「ぬくもったら自分のベッドに戻ってもらうぞ」
体温のサンドイッチで冷えの解消を早めたい、と思っての行動だった。凍えるルパンを哀れに思う気持ち半分、さっさと寝たい気持ちが半分。
「う、う~~~ん」
戸惑ったように上げたルパンの声が思いのほか幼く聞こえて気を緩めた瞬間、手の中にあったルパンの手が素早く動いてすぼっとシャツの裾から侵入してきた。
「っ!、だぁッっ」
くたびれたシャツ一枚といえどそれなりの防御にはなっていたようで、じかに触れられるとルパンの指先の尋常でない冷たさに思わず声が出た。今度は手を引きはがそうとルパンの腕を掴んだがあろうことか開いた掌をぴったりと腹に押し付けてくる。
「や、っやめろ」
「どーしてよ、早くぬくもってほしいんデショ?」
返すルパンの声は相変わらず普段の勢いはなかったが、わずかに笑いがにじんでいて銭形を苛立たせた。くそ、コイツ、人の好意をからかいやがって――!
振りほどこうにも、すでに上半身はがっちりと拘束されていて動けない。蹴り飛ばしてやろうと屈めていた脚を後ろに向かって振り上げるも、待ってましたと言わんばかりにルパンの脚に絡めとられてしまってまた銭形は情けない声を上げた。
「ひぎゃっ」
眠気で温まっていた銭形の脚に押し付けられるルパンの脚はまるで氷柱のようで、さすがに逃れようとじたばたもがくが、ルパンはその動きを逆手にとって器用に銭形の脚の間にぐいぐいと自分の脚を割り込ませていった。
「あ~っ本当ぬくぬくしてるネとっつあんの体……まさか自分だけ電気毛布使ってたとかじゃねぇよな?」
「んっなわけねぇだろ…っ、あ、し、冷たすぎんだよ、離れろ……っ」
「ヤダ」
「おま…っ、貴様、っ、人が優しくしてやってりゃ付け上がりおって…っ」
体温高めと自他ともに認める銭形だが、ツララのお化けと化したルパンに絡みつかれてはたまったものではない。伝わる冷気に肌が粟立つ。
「冷えてるときは足を温めないとさぁ……、とっつあんも知ってるでしょ? こういうの日本のことわざでなんて言うんだっけ、サンカンシオン?」
「……頭寒足熱じゃねぇのか」
ついでに言うなら諺ってより四字熟語だろう。気が削がれてつぶやくと、ルパンはああそれそれ、とうなずいた。
幾分落ち着いて状況を検めてみれば、腹に当てられたルパンの手はまだひんやりしているものの股に差し込まれた脚よりは人並みの体温を取り戻しているようだった。
「わかったからもう大人しくしとれ、ワシは眠いんだ」
「はぁ~い」
ルパンの小さい返事に、やけに素直だなと思ったものの、突っ込むのも面倒くさいので銭形は目を閉じた。ルパンも疲れたのか口を噤んでゆっくりと銭形の腹を撫でさするだけになる。
なんじゃこりゃ、と思ったが、その手つきは、幼い頃、腹痛で泣く自分に添い寝してくれた母を思い出させた。いつしか銭形の意識は再び微睡みと覚醒の間をゆらゆらと揺蕩っていた。それは疲れた体にはとても心地よいもので、ルパンの指が動きを変えて腹肉をつまんだ時にもうっすら目を開けるだけの反応にとどまった。
「とっつあんって意外にお腹ぷにッてんだねェ」
「……お前もじきにこうなるさ」
ルパンの声音にからかいがなかったこともあり、銭形は眠たげな調子で答えた。同世代の一般男性に比べれば鍛えているつもりの体も加齢には勝てない。腹回りにつき始めた皮下脂肪は気を抜けば下着のゴムの上に乗る始末だった。
「ん、でも肌はすっごいスベスベ」
会話を成り立たせる気があるのかないのかそんなことを言いながらさらにフニフニと腹をつまむルパンの指がくすぐったくて銭形はかすかに身をよじった。
「お前、触るのはいいがつまむのはよせ。くすぐってぇよ」
ふ、とこぼれた銭形のくぐもった笑いにルパンは真顔になった。考えてみれば銭形がこんな無防備に自分に体を預けたことなどこれまで一度もなかった。五年ぶりの再会にキスを贈った時ですら汚らわしいだのなんだと暴れ拒絶されたのである。不意にその事実に気づいてルパンの胸の奥にざわりと波が立った。
それがなんなのか明確な見当がつかないまま、ルパンはつまむのをやめて手をそろそろと上げていった。たどり着いた鳩尾のあたりをゆっくりと撫でる。
「……なんで場所変えた?」
「や、ずっとお腹触ってたらお腹冷えちゃうからネ」
「気を遣うところがずれとる」
そう言いながらもされるがままの銭形になぜかぐっと抱きしめたい衝動に駆られるルパンだったが、自分でも意味が分からないと思いなおしてそっと額を銭形の背中に擦り寄せるだけにとどめた。
そうこうしているうちにやがて銭形はすうすうと寝息を立て始める。しかしルパンはその背後で目を閉じることもできないでいた。
ずっと自分を逮捕するためだけに追いかけてきていた鬼警部が腕の中でしどけない寝姿をさらしているのである。触れたことがない――わけではない、普段の追いかけっこの最中に掴み合いになることなど茶飯事だった。けれどそれはもちろん服の上からだったし、力の漲る筋肉は鋼のように硬かった。それなのに。
「なんということでしょう、匠の技により気が抜けたとっつあんはこんなに柔らかいのです」
銭形を起こさないよう口の中でルパンはつぶやいた。どこか日本のテレビ番組で聞いたことがあるような言い回しになってしまったがそんなことはどうでもよかった。
とっつあんも人間なんだなぁ、とぼんやり思う。どんなに手酷くやり込めてもしつこくしつこく食いついてくる銭形の不屈の精神をルパンは敵ながら天晴だと認めていたし、人並み外れた肉体の強靭さや体力にうっすらあいつはロボットかなんかじゃないのかなんて思うことすらあったのだった。しかしじわじわと体温と感覚が戻りつつある手の下にある銭形の体は温かく、柔らかい弾力があった。
スンと鼻を鳴らすと、ルパンの鼻腔に銭形の匂いが流れ込む。シャンプーと、煙草。嫌な匂いではない。銭形の肩甲骨の間あたりに鼻先を埋め、無意識にスンスンとそれを嗅ぎ続けている自分に気づいてルパンは慌てて胸の内で言い訳をする。
――こっ、これはっ、とっつあんに変装する時にそれをより完璧にするための参考なんだからねっ!
*
朝の光がまぶたを通して意識を引き上げ、銭形はぱちりと目を開けた。
「ああ……くそッ」
案の定、隣のベッドはもぬけの殻。何度も経験したことではあるが、上司にどう言い訳をしようかと思うと胃がキリキリする。慌てて布団から出ようと体を起こし、ふと掌の下のシーツがまだ温かいことに気づいた。今にも消えそうな、自分のものではない、温もり。
「舐めやがって」
力が入った指の下でくしゃりとシーツがゆがむ。この様子だとそれほど遠くまで逃げてはいないかもしれない。銭形はベッドから飛び出すとクローゼットを開けた。気忙しくスーツを着込みながら残りの荷物をトランクに押し込む。ルパンのいない街に用はない。
「チェックアウトだっ、早くしろっ!」
無人のカウンターで怒鳴り散らし、やっと出てきたフロントスタッフにルームキーを投げつけた銭形は大股でホテルを出ていく。見送ったスタッフは呆気にとられて顔を見合せた。
「――なんか昨日よりずいぶん元気よかったな…」「だな」
冷たく研ぎ澄まされた朝の空気が銭形の頭を冷やす。コートの襟をかき合わせる手の中に、昨夜握り込んだルパンの手の感触がよみがえった気がして足取りが鈍る。氷のように硬く冷たい手に自分の体温を分け与え――、いや、奪われたというほうが正しいのか。徐々に温度を取り戻していく様子に「コイツも人間なんだなぁ」なんて絆されかけていたのに。
と、向かいから歩いてきた女が路肩の雪を避けようとして銭形にぶつかる。ぼんやり立っていた銭形はハッと我に返った。
空を見上げると、自身が吐いた息が白く立ち上って消えた。掌は――とうに冷え切っていた。
*
銭形が怒涛のチェックアウトを済ませた頃、ルパンはすでに次の計画に動いていた。
一週間後、ルパンは次元と五右エ門と赤道近くの国で落ち合い、仕事の準備を進めていた。
その合間に立ち寄ったのは、地元民が集まる市場。がやがやと飛び交う現地語や笑顔に活気があふれる。
ルパンは色とりどりの野菜や果物を眺めながら鼻歌を口ずさんでいた。
「いや~、ここんとこアジトに缶詰だったからなぁ、外の空気を吸うのもいいもんでしょ」
「悪くねぇが、しっかし暑いなぁ。どうせならビーチが良かったんじゃねぇか、水着のオネェチャンがいるような」
次元は襟元に指を突っ込み、南国のじりじりと焼けるような日差しの強さに眉をひそめる。
五右エ門は肉が焼かれる匂いに顔をしかめつつも興味津々だ。
「拙者、このスパイスというのか?香辛料の匂いはあまり好きではないな……。蕎麦が食いたい」
「……お前らってホンット協調性ねぇのな!」
ルパンは唇を尖らせて拗ねた声を上げた。次元と五右エ門は顔を見合わせて肩をすくめる。
「だって俺らお前が来るより前からこの国にいるんだぜ」
「左様。この市場も最初ほど珍しさはない」
「なんだよ~冷たくない?友達じゃねぇの俺ら?まぁここは暑いんだけどさ?」
軽口をたたき合っていると乾いた風が市場を吹き抜けた。風の強さに店の日よけの布が一斉にはためく。スパイスや果物の香りが入り混じる中、ふと鼻をくすぐる匂いにルパンはハッと顔を上げた。
「――とっつあんの匂いがする」
次元と五右エ門の顔に緊張が走る。それぞれの武器に手をかけつつ周囲を伺ったが、ごった返す人波の中にそれという姿は見当たらない。あの浅黒い顔は現地人に紛れ込める可能性もあるが、帽子にコートというトレードマークはここでは浮きまくるはずだ。二人は自分のことを棚に上げ、顔をしかめつつも警戒を解かずに人混みへ視線を走らせた。
そのうち、強風に驚いた人々が元の調子を取り戻し始める。いっとき引いていたざわめきの音量が徐々に上がり、次元は肩の力を抜いた。
「いねぇみたいだな。だいたいなんだよ、『とっつあんの匂い』って。銭さんって体臭キツイのか?」
「そんなことはないと思うが……あやつの言うことは、時々解らん」
未だにキョロキョロしているルパンの背中を見ながら次元はマグナムを、五右エ門は斬鉄剣を収めた。
「暑さでおかしくなっちまったか……」
「恥だ、やめさせろ」
「やだよ、なんで俺が」
ひそひそ言い合っているとまた一陣の風が吹き、次元の帽子をわずかに浮かせた。ルパンの体がバネ仕掛けのように跳ねる。次の瞬間にはもう、風上へ向かって駆け出していた。
「あっ、おい――」
次元の制止も聞かず、赤いジャケットは人混みをかき分けみるみると遠ざかっていった。さすがにそれを見失うはずもなく、目で追っていくと――。
「げ」
ぴょこぴょこ上下するルパンの頭の向こうに見慣れたキャラメル色の帽子が見え隠れしている。行きかう人々のおかげでこちらには気付かれていないようだが、二人は念のために積まれている果物箱の陰に身を隠した。
「何のつもりなのだ、ルパンは」
「あーあ、いつもの悪い癖。悪乗り、悪フザケ」
五右エ門のこぼした疑問に答えた次元の口から舌打ちが漏れた。
*
「やっほー、とっつあん」
人の波から顔を出し、声をかけてきたルパンに銭形はぱちくりと目を瞬かせた。あれから上司に頭を下げ倒し、情報を洗い直し、その間にもあちこち動いて情報を集め、可能な限りのスピードでルパンの足取りを掴んでこの国に来た銭形だったが、まさかその日のうちに宿敵に相まみえるとは思っていなかった。
「ルパン!」
思わず上げた叫びは、市場のにぎやかさに紛れる。ルパンは満面の笑みで銭形の手を取った。まるで旧友に触れるときのように、指先にだけ力を込めながら。
「あんときはアリガトネッ」
「お……おぉ……?」
突拍子もないルパンの行動に呆気にとられた銭形は、しばらくの間されるがままになっていたが、ルパンの手が人並みの温度になっていることに気づいてどこか安堵した。
隠れて様子をうかがっていた次元はあきれたような溜息を漏らした。
「あの様子じゃこっちには気付かなそうだな。……お熱いことで」
ルパンが銭形と何を話しているのかは解らないが、遠目にみる限りじゃれ合いでしかなさそうだ。飽きたら適当にまいてアジトに戻ってくるだろう。次元の後ろで同じ光景を眺めていた五右エ門は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「まったくだ、暑苦しい」
次元は苦笑して腰を伸ばした。「驚いたら喉が渇いたな」と言いながら箱からトロピカルフルーツを頂戴して一口かじる。甘い香りと果汁が口いっぱいに広がった。そのまま肩越しに五右エ門の口元に持っていく。無言で促された五右エ門は顔を寄せてその果物をかじった。
「美味いだろ」
「温くて、甘すぎる」
顔をしかめた五右エ門に次元は笑った。
「――それが良かったりするもんだ」