人間がまだ光を制御する術を持たなかった古の時代。
陽が落ちればそこは闇が支配する世界だった。目を開けても、目を閉じても何も変わらない闇。どろりと濃い墨のようなその空間。
夜行性の獣のような目も持たないのに視力に頼るしかない人間には闇は畏怖すべきものだった。
月が出ている夜はその光に安堵する。遠くの火山が吐き出す溶岩の光を恐怖と欲望の入り混じる気持ちで眺める。
そのうち、「火」を制御することを覚えた人間が出てきた。闇に飲み込まれることを思えば少々火傷することなど厭わない。道具を作ること、使うこと、改良していくことを覚えた彼らはどんどん闇を駆逐していった。今では光のない夜など考えられないほどに。
――けれど、闇は決してなくならない。闇が内包するものも。決してなくならない。