「そろそろ本当のこと教えてチョーダイ。俺のことどう思ってんの?」
何度同じ質問を繰り返しただろう。頑なに答えない相手に男は呆れたようにため息をついた。
「じゃぁさ、じゃぁさ、こーゆーのはどう? 昼間言ったデショ、今日は嘘をついてもいい日なんだよね、だからさ、今から言うことは嘘んこってことでさ、ネッ、だからさ、アンタの気持ち、教えてよ」
帽子の鍔の陰になった眉がピクリと動くのを見て男は少しの希望を持つ。
「ねね、ほら、じゃぁまずさ、丸腰の俺様と二人っきりになってアンタは何をしたい?」
「……逮捕したい」
ぶっきらぼうに言う相手に男は大げさにのけぞる。
「…もぉーッ、そうじゃないデショーがとっつあんったら!」
あまりに必死な男の様子に相手はハァ、と深いため息をつくとじろりと男の目を見据えた。
「……今日がその、四月馬鹿っつー日なんだな?」
男は素早く首を縦に振る。
「じゃぁ今から俺は嘘をつくぞ」
「…お前に触れたい」
小声だがしっかりとした口調で相手は言った、男は相手の手を取り、そのまま自分の頬にその手を触れさせる。
一瞬びくりとする相手だが添えられた男の手が離れても頬に触れる自分の手を動かすことはしなかった。
「…お前を抱きしめたい」
嘘だが、と続ける言葉ごと男は相手を抱きしめる。頬に触れていた手は自然と男の背中に回されて。
「……とっつあん、いちいち嘘だとか言わなくていいよ」
男は苦笑した。返事はなく、背中に回された腕にグ、と力が入る。
自分の胸より少し高い位置に相手の動悸を感じて男は静かな幸福感に酔いしれた。だが
「ちょ、ちょ・ちょっと痛いって」
照れ隠しなのか力の加減が解らないのか、相手の腕は男の体をぎゅうぎゅうと締め上げ、たまらず男は悲鳴を上げた。
「す、すまん」
はっとしたように戒めを解く相手と男の視線がぶつかる。見つめあったまましばらく沈黙が続き…相手は真面目な顔で口を開いた。
「お前と、」
その言葉を遮るように男は相手の唇に指を当てる。
驚いたように丸くなるその眼を見つめたまま、ゆっくりと唇を指の腹でなぞれば相手の体にまとわりついていた硬い空気がほどけていくのがわかった。
丸く大きな瞳に、濃いまつ毛に縁どられた瞼が覆いかぶさってゆく。男はわずかにかかとを上げると相手のほんの少し色づいた目尻にくちづけ、薄く開いたままの唇をふにふにと弄んだ。
「、は」
親指で唇を、残りの指で首筋をさすられた相手はギュッと目を閉じて思わず息を漏らす。
略
「は、あ、…っあ、……んっ、ぃいっ…」
「ん、俺も、スッゴイ気持ちイイよ…ネ、解るでしょ、中、どうなってるか」
「…知るかっ……あっ、や……っ、はぁ、もぅ、」
胡坐をかいた男の腰に相手は跨り、男はその尻に手を回して自身も激しく突き上げながら相手の体を揺さぶる。
男は相手の様子から限界が近いことを知り、同時に果てようと角度とリズムを変えた。
首に回された腕にぐっと力が入り、男の肩に当てられた相手の口からくぐもった悲鳴が漏れる。
「好きだよ、とっつあん、一緒にイこ?」
略
余韻をさましながらも二人はベッドの上でぼんやりしていた。
やがて起き上った相手が脱ぎ捨てられたコートのポケットから煙草をとりだし咥えると火をつける。パケージからもう一本をのぞかせ男に差し出すが
「遠慮しとくわ、とっつあんの煙草は俺にゃきつ過ぎる」
男はサイドボードから自分の煙草を取り出した。ちょいちょい、と手招きすると近づいてきた相手が咥えていた煙草の先端に自分の咥えた煙草を押し付ける。
うまそうに煙をくゆらせる男をまっすぐに見ながら相手は言った。
「ルパン、俺はお前が好きだ」
「――うん」
予想に反して淡白な返事をする男に相手は拍子抜けの顔をした。男はそんな相手の顔を見て笑う。
「なんだよ…もっと大げさなリアクションすると思った?」
あ、ああ…と気の抜けた声で返す相手を見て男は灰皿に煙草を押し付ける。
「俺ね、今すっごく幸せな気分なのヨとっつあん」
「……」
「だあってさ、やっと素直ーなとっつあんの本っ当の気持ち。聞けたんだもん」
『素直』『本当の』という単語を強調するように言ってにんまりと笑う男に相手は動揺を見せた。
「ばっ…、ありゃ嘘だ、言ったじゃねぇかお前、今日は嘘ついていい日なんだって…!」
男は人差し指を立てるとチッチッチッと左右に振った
「エイプリルフールで嘘をつけるのはさ、正午までなんだよね」
「なぬ!?」
「だからさ、午前中だけなの。嘘ついていいのは」
「ルパンてめぇ、騙しやがったな!」
みるみるうちに真っ赤になる相手の顔を眺めながら男はのんびりと笑った。
「俺、別に嘘はついてねぇぜ? 四月一日がエイプリルフールなのは本当のことだし『嘘をついていいのは午前中だけ』って言わなかっただけじゃん」
男に屁理屈ではかなわないことを知っている相手は黙ったまま拳を握りしめている。
「まさか正義のミカタの警察官がエイプリルフールでもないのに嘘をついた……とか言わないよね?」
くくく、と笑いながら言う男に相手は返事をしなかった。長い沈黙の後、こりゃちょっといじめすぎちゃったかなと男は横目で相手の様子をうかがう。
相手は短くなった煙草を灰皿で揉み消すと男に向かって盛大に煙を吹きかけた。
「なぁにすんだよ」
オチ案1
顔を顰める男を見て相手は白い歯を見せて笑う。
「警察官だって嘘をつくことくらいあるわい」
男は目を丸くして相手を見つめた。
「えっ、何それ、どっからどこまで嘘だったって言うのッ」
「さあな」
略
オチ案2
「ああ……もう」
相手は自分の髪をがしがしとかき混ぜる。
「まったくお前にはかなわんな」
以下開き直ったけいぶが好きだ好きだを連発し逆にちょっと引き気味になるル様の描写で終了