「会いたいのに会えない、なーんてまるで俺たち織姫と彦星みてーじゃん?」
テーブルに上半身を投げ出してぼやく男に相棒たちは呆れてため息を吐いた。
「誰が織姫で誰が彦星だよ、馬鹿馬鹿しい」
「仕事をしなけりゃ会えないところとか、まさにそうじゃないの」
単なる思いつきで言いだしたことだったのだろうが、自分の言葉で想いが強調されたのか男は口をとがらせる。
「ふむ、今日は七夕か」
着物姿の剣士は空を見上げた。周りに何もない山奥のこのアジトからは満天の星が見える。
藍闇の空には白々とした天の川がかかり、うっすらと明るささえ感じるその流れを中心に散らばる小さな星がキラキラと輝いていた。剣士は感嘆のため息を吐くと立ち上がり、バルコニーを後にした。
次に戻ってきた時に剣士は手にしていた紙片をテーブルの上に恭しく置いた。
「なぁにこれ」
「短冊だ。日本ではこれに願い事を書いて、笹の葉につるすという風習があるのだ」
「へぇ」
「懐かしいな、俺も子供の頃にゃ願い事を書いてつるしたもんだ。お星さまにお願い、なんてな」
「銭形殿に会えますように――、とでも書いたらどうだ」
そう言って紙片を差し出すと、男は受け取ったものの頬杖をついてつまらなそうな顔でそれを眺めた。
「生憎俺は『誰かに叶えて欲しい願い』、なんてものぁねぇのよ」
その言葉に剣士とガンマンは顔を見合わせる。
「欲しいものがあれば自分で手に入れるし、希うことがあればそれも叶えるのは俺自身なわけ」
尊大な言葉に相棒二人はやれやれと肩をすくめた。
「ならばお主は書かなくともよい。単なる風習だ」
剣士が男の指の間に挟まれた短冊を取り返そうとすると、男は慌てた様子でそれを胸に抱きしめた。
「ちょ、書かないとは言ってないデショ、書く書く、書きますヨ」
「素直じゃねぇなあ」
笑いを含んだガンマンの言葉に男は膨れっ面をして見せた。
――静寂の中、ちりちりと光る星たちを眺める。
「この天気なら織姫と彦星は一年ぶりの逢瀬を楽しんでるだろうな」
「……とっつあんも同じ星、見てるかな」
「そんなに近くにいるとは考えたくないのだが……」
出来れば時差があるほど離れた地域にいてほしい、と相棒たちは思う。
風が吹き、バルコニーの柵に括りつけられた笹をしならせた。
ひらひらと煽られる三枚の紙片を見て剣士は穏やかな笑みを浮かべた。